作曲個展、終演!

〜今を生きる作曲家に焦点を当てて

 遂に個展が終演、形になるのを心待ちにしていた楽曲群が、演奏家という媒体を通し姿を成し、デジタルな活字体である譜面を人から楽器を通して発せられる声として私、そして聴衆へ届けられた。

 企画して頂いた音楽ネットワーク「えん」の皆様、足を運んで頂いた皆様、そして協力頂いた演奏家の皆様、重ねて感謝申し上げます。

 結果、以下の内容となった。

・march

 元は吹奏楽用に作られた曲。出演者総出の編成に、今演奏会の出演者紹介的なオープニング曲。磯貝 俊幸の先導の下進められ、3連符や付点の独自の解釈を盛り込んで頂き、より行進曲らしい躍動感が得られた。

・nocturne、minuetto、arabesque

 fluteアンサンブル。arabesqueは初演。村松 麻衣のpianoとの掛け合いは、磯貝氏のテクニックあってこそ対等の性格を表現することが実現出来た。前回の発表から抽出した2曲に加えられ、上手にバランスを整えられたように思う。

・impromptu

 celloとpianoのアンサンブル。譜面を見るとpresto以上のテンポを想像してしまうが、そこは霜浦の解釈が光る美しいレガートで落ち着いた演出を可能にした。後半の間の取り方も最適で、深谷 展晃のcelloを十二分に引き立て、印象に残る初演となった。

・piccola storia

 譜面通り演奏してしまうと取り留めのない構成となってしまう、語り口としてはたどたどしさの残る小品集ではあるが、村松の言語として捉えた演奏により自然な歌として発せられた演奏は、とても聴きやすい形でまとめられた。

・quintet

 吹奏楽の、いわば子供向けアンサンブルとは打って変わる個々の必要性の高い内容なだけに、4楽章とも緊張感漂う演奏となった。冷静に、正確に縦の線を追ってゆくよりも、メロディアスな、肉声の色合いを尊重した演奏となった。

・Evocasiones

 3曲目の『時』は割愛となった。しかし「夢」はその文字の持つ音符の並びが特徴的なキャラクターを出現させ、是非とも再演を望まれる。今回の演奏のため、弓の選定までして頂いた竹田のviolinは、朗々と歌うaltoの美声を聞いているよう。

・un posto al sole

 遂に実現に至ったこの曲。序盤、終盤の肉声に近いOboeの音域を上手に捉えた演奏となった。複合3部のAのb部分でのテンポダウンは控えめにお願いしたところ、全体を通してバランスのとれた形を整えることが出来た。

・ballad

 よくよく振り返れば、予めメロディに対しての伴奏があり、彩りをなすというスタイルをほとんどとっておらず、メロディに肉付けしていく上で自然に必要とされる音を重ねていくことを繰り返して形作られた。

・piano trio

 本当に譜面以上の表現を形に残してくれた。現時点での風羽藍玖最高傑作の一つと言える。一度も合わせには立会いをしていないのだが、しかしきっと望む解釈をしてくれるであろうという確信があり、奏者の確かな技術が光る。

・Along with the memories

 大きく高揚したpianotrioの興奮を納めるが如く、この1日を振り返り記憶に刻むための演出が無理なく成された、息のあった印象的な演奏であった。下畝地のsoloはよく役割を意識し、安心して委ねられる歌を聴くことができた。 

Aki Kazaha’s information room

風羽 藍玖、作曲家。愛知県出身。 ピアノ、シンセサイザーを用いたインストゥルメンタルや、アンサンブル・吹奏楽楽曲を主立った守備範囲とし、 サロンコンサートやジョイントコンサートを中心に活動を展開。 第31回、第33回東京国際芸術協会主催全日本作曲家コンクール奨励賞受賞。

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